io-design

もりしんじ ポートフォリオサイト

蠍の毒と鳥の歌

2019年5月5日
291 views
約 4 分

月夜の蒼い夜。
砂漠を征くキャラバンの金銀の財宝は、ラクダが歩を進めるたびに、鈴の音のような透き通った音を奏でた。
荷物の中に大事に包み込むように包まれた籠の中。
美しい青い鳥の鳴き声がする。
その声は、夜空に深く吸い込まれながらも、心の中に深く響き渡る音色。
蠍はその声を求め、ラクダの背に這い上がり、鳥カゴの中に迷いこんだ。

鳥は蠍を知らず、優しく歌いかけた。
蠍はその歌を聴いて心を惹かれながらも、その綺麗な歌声を嫉み、怒りを抱いた。
蠍たちが持っているのは毒だけで、この毒は蠍たちの心の痛みでできている。
鳥たちがこの苦しみを持っていたらそんな歌は歌えない。
心に堅い殻をつくって空も飛べなくなる。
その軽い鳥の心は、ひと刺しの毒で溶けてしまうに違いない。

鳥は言う。
鳥たちは、蠍たちの毒をも理解する。
この身体が溶けたとしても、きっと、心満たす歌を歌い続ける。
いつでも、どこでも、ずっと。

蠍は、その言葉に怒り満たされながら怒って、その鳥の腹に毒を流し込んだ。
鳥は、痛みに耐えながら、蠍を優しくその羽根で蠍の堅い冷たい殻をあたためているかのように包み込んだ。
かすかに囁くように歌うその歌は、子守歌のように響いた。
痛みに似た愛おしさに満ちた歌声だった。

蠍は抗うように思った。
もっと体の中に蠍が抱えている毒を注いでしまえば、全てを呪いながら死んでいくだろう。
蠍たちの毒は、世界中全ての呪いをかき集めた、悪意に満ちたものだから。

蠍たちの毒は、鳥の中で、ひどく自虐的に、ひどく暴力的に荒れ狂った。
そしてその声は、激しくむせび泣き、狂ったように罵るような響きを醸し出し、旅人達は、こんな声では、この鳥は使い物にならないと、鳥を殺して食おうとした。
しかし、鳥カゴの中に、赤い目の光を宿した蠍を見つけると、恐れのあまり、鳥カゴを砂の中にほおり出してしまった。

蠍は、尻尾のねじ曲がった鍵爪で、鳥カゴの扉を開き、鳥を岩場まで運んでいった。

鳥が歌う歌は、途切れ途切れに蠍をいたわる音色を奏でようとした。
しかし、それは歌にはならず、ただ、蠍をじっと見つめることしかできず、それを知った蠍は、鳥との絆が切れたと思った。

歌ってくれない鳥は、もう蠍を思っているのかもわからなかった。
蠍は、自分がしてきたことを後悔した。
自分たちの持っている毒を呪い、のたうちながら苦しんだ。

鳥は、そんな蠍を見つめ、自分が蠍をまだ思っている事を知らせたかった。
しかし、咽は毒で焼き付き、かすかな息しか搾り出すことしかできなかった。

それでも鳥は、震える翼で蠍を冷たい風から守ってあげようと、そっと羽根で包む。
蠍は嬉しさと、後悔とで身が引きちぎられそうな思いを抱いてそっと鳥を見上げた。
蠍は何故、蠍なのだろう?

夜の冷たい風が鳥を避けるように、岩場の間に鳥を隠し、昼の間に熱を蓄えた砂を少しかけた。
昼は、砂漠を渡る者を探し、殺し続け運ぶにままならなくなった旅人の放棄した荷物を奪った。
蠍は、鳥を昼の灼熱の太陽から守るため、岩に堅い殻で覆われた自分の爪で一心に穴を穿った。
旅人から奪った食料はすぐに砂に埋もれてしまい、蠍は、また、旅人達を狙い続けた。

声を無くした鳥は、蠍が岩を穿っているとき、旅人を襲っているとき、寂しさのあまり命の火が消えてしまった。
身動きしない鳥の身体を眼にしても、蠍はその亡きがらに旅人から奪ったえさを運び続け、岩を穿っていた。

亡きがらが風化し、風に消えるころには、蠍は、岩に穿った洞窟の中に鳥の彫像を彫り上げ、じっとその場にうずくまった。
ずっと、ずっと、蠍は、その世界が終わるまで、旅人を襲い、岩盤を穿ち、いくつも、いくつも鳥の彫像を作り続けた。
蠍は、鳥の歌う天の歌をいつまでも恋しく思いながらも、天に昇ることを拒み、地を這い永久に生き続けた。

コメントを残す

Comment On Facebook

Today’s STORY’s

More

Todat’s DESIGN’s

2 May
2019

fin

More

今持つ技術の全てをつぎ込むウェアデザイン

制作するウェアは自社でデザインしています。 デザイン自体を言われるがまま作成するのではなく、こちらが考え得るもの全てをつぎ込んで制作します。 お客様それぞれの想いと、こちらの制作の今持ち得る限りの考え方をつぎ込んで制作するからこそ、ひとつひとつ個性の光る仕上がりになります。
今持つ技術の全てをつぎ込むウェアデザイン